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​シサム工房と考える ​ノベルティにおけるフェアトレードの未来とは?

シサム工房と考える

​ノベルティにおけるフェアトレードの未来とは?

SDGsへの貢献や、企業・ブランドの価値向上のために、フェアトレードのアイテムをノベルティに採用するのも一つの有効な方法です。 言うのは簡単ですが、それを実現するためには何が必要でしょうか? 

今回は、アジア6か国、13のフェアトレードNGOと協業し、アパレル、生活雑貨やコーヒーを輸入販売しているシサム工房の代表取締役 水野泰平氏と、取締役 人見とも子氏、販売・物流部門統括/卸マネージャーの池澤匡彦氏をお招きし、ヒロモリの「サステナビリティ推進チーム」近藤彰彦、松浦昭重、坂本陽子が、ノベルティにおけるフェアトレードの可能性と課題についてディスカッションを行いました。 

貧困などの世界的な課題やSDGsの推進による社会環境や意識の変化を背景に、ノベルティ採用者であるクライアント企業やノベルティ使用者である生活者に対する、マーケティングの「これから」を考えます。 

 
目次

「フェアトレード」を発信する「場」をつくる 
フェアトレードをノベルティに展開するってどういうことか? 
フェアトレード・ノベルティのオリジナリティ、課題と可能性 
世の中のSDGsの流れが、フェアトレード・ノベルティの追い風になる 
各々の「自分ごと化」がつくるフェアトレード・ノベルティの未来 

 オンラインインタビュー参加者

※このインタビューはオンラインで実施されました。 

シサム工房について 

シサム工房は、1999年に京都の郊外にフェアトレードショップとして創業。学生時代に人権や貧困の問題と出会い、バックパッカーとしてアジア、アフリカを旅した水野代表が、社会経済的に立場の弱い人たちとよりいい形でつながって生きていきたい、と強い想いを持ったのが始まりです。 創業以来、オリジナルの商品開発を行い、商品の質やデザイン、提案する空間にこだわりながら、一貫してフェアトレードにチャリティではなく、事業として取り組んでいます。 

詳しくはこちらをご覧ください https://sisam.jp/about/

 

「フェアトレード」を発信する「場」をつくる 

坂本 
ビジネスを立ち上げるときからフェアトレードを軸にすると決めていたのですか? 今から20年以上前だと市場も人々の意識もフェアトレードの概念は薄かったと思います。お客さんがつくのか?勝算は?など迷いや不安はありませんでしたか? 

水野 
そうですね。フェアトレードという軸がなかったら、こういうビジネスがしたい、お店を始めようとは思わなかったです。フェアトレードがあったからこそ。不安は正直ありませんでした。事業としての勝算があったから始めたのではなく、自分の生き方、何をして生きていくか?を考えたときにフェアトレードのショップを持ちたいと思いました。 

学生時代に知識としてのフェアトレードは持っていました。最初に勤めた会社で雑貨バイヤーとして働くなかで、「モノ」と「フェアトレード」を融合して発信していく「場」をつくることを考えるようになりました。 
「場」をつくるか、もしくはNGOで働くか、の二択が自分の中にはあったのですが、10年後20年後、どちらが自分らしくいられるかを想像したときに、シサム工房という「場」をつくることを選びました。 

坂本 
シサムさんの製品はどのような生産者がつくっていますか?また、フェアトレードのモノづくりや、生産現場はどんな様子ですか? 

人見 
シサムの取引先、6か国13のNGOと直接やり取りをしています。 その中で、ノベルティ事業を展開するきっかけになったのがインドのムンバイのNGOです。 

インドのスラムってご存じですか?貧しい人たちが移住してきた大居住区で、2m四方くらいの狭いスペースに一家が暮らしています。そんなスラムの中にあるのが、我々のパートナーであるNGO「クリエイティブ・ハンディクラフト」です。ここでは、スラムのお母さんたちがミシンで家族を養っています。清潔な空間に1部屋20台くらいのミシンがあり、200~300人の女性が働いています。 

クリエイティブ・ハンディクラフトには訓練センターがありまして、完全無料で半年間、ミシンの訓練を受けることができます。スラムの多くの女性はミシンなんてやったことがない、学校も出ていない、言葉も通じない。でもクリエイティブ・ハンディクラフトには訓練ができる環境があり、訓練中もおこづかいが支給されます。ノンスキルでも人生を再スタートできるところが、とってもフェアトレード的なのです。 

訓練にはお金や手間がかかります。仕入れを安くしたければ、すでにミシンを使える人を雇った方が早いし、不良品のリスクもない。フェアトレードでは、少しでも安く製品を作りたいのではなく、少しでも困っている人の生活に光を与えたい。経済より人間ファーストなのです。

クリエイティブ・ハンディクラフトの様子

出典:クリエイティブ・ハンディクラフトについて https://sisam.jp/partner/creative-handicrafts/ 

フェアトレードをノベルティに展開するってどういうことか? 

坂本 
フェアトレードを販売品からノベルティ事業に展開しようと思ったきっかけや、そのときに考えたことは? 

水野 
まず、「フェアトレードを事業にする」には、「モノがしっかりしていないといけない」ということを大前提として考えていました。フェアトレードだから品質が多少悪くても…という甘えでやっていては、事業として継続性を持てないし、逆にフェアトレードのイメージを下げてしまうと考えていました。なので、日本の市場に受け入れられる質のいいモノづくりにずっと取り組んできたのですが、一方でジレンマもありました。というのは、良いモノを作るには良いモノを作れる人=スキルがある人にしか仕事を依頼できない。ですが、フェアトレードの精神からすると、より多くの人に仕事を依頼していきたい。もっと言うと、立場の弱い人、熟練していない人にこそ、仕事を依頼していきたい、そんな思いがありました。 

そんなとき、クリエイティブ・ハンディクラフトに出張に行った際に、別の部屋でエコバッグを作っている女性たちがいました。職業訓練のためにエコバッグを作っていると知ったのですが、そのときに、エコバッグを日本でも事業にすることができたら、この女性たちに仕事を依頼することができる。そしてミシンの訓練にもなる、ということを思いました。 

出張から帰ってからノベルティの世界について調べたら、全く違うスピード感、コスト、安定品質。同じものを安く、早くというのがノベルティの世界でした。フェアトレードの現場でできるエコバッグは、ノベルティの世界で太刀打ちできるのだろうか?リアルに考えを巡らせました。 
でも、まずやってみようと「2 smiles novelty」を立ち上げました。私たちができることを明確にしてノベルティの世界で発信していったところ、少しずつ共感していただき、注文をいただけるようになってきました。 

松浦 
確かにノベルティは、ロットやコスト、スピードが全く違う世界ですね。 
今、いろいろな企業からご相談をいただくなかで、提案にフェアトレードやSDGsの要素をどの程度入れていくかの過渡期にきていると思います。今後さらに要望は増えていくという感覚はあります。そんな時に、「早く安くうまく」じゃない、このような価値観に共感して採用していただけるか、提案自体を変えていくタイミングにきていると感じています。もちろん採用する企業側にもジレンマはあると思います。 

近藤 
そこを「企画としてどう提案していくか」だと。アイテム単品で勝負してしまうと、「高い/安い」の判断になってしまうので。背景を含めたストーリーをいかに企画として伝えられるか、そこは考えていきたいですね。 

坂本 
まず担当者を巻き込んでいくことは大事。さらに、それが最終的に生活者の手に渡ったときに、フェアトレードのアイテムが企業・ブランドの価値向上につながらないと、コストや納期のギャップを納得してもらえないです。生活者に価値を伝えることも込みで企画化する必要があると思います。 

池澤 
背景があっても、それが伝わらないと価値にならない。シサムでは「伝わるツール」も用意しています。 

  • 商品一点一点に説明タグをつけています。生産者の情報にQRコードからもアクセスできます。 
  • 採用いただいた企業に感謝状を進呈して社内教育などに活用していただいています。クライアントの注文品を作っている様子を撮影して印刷することも可能です。 

今までの営業商談のヒアリングから、どこまでの熱量で社内に企画を通せるかが課題だと感じています。担当者は熱い思いを持っていても、上層部に上げたときに「コストが高い」などの理由で見送られる。そこへのサポート、上層部に伝わる仕組みやツールは用意していきたい。追い風としてSDGsに取り組む企業が増えているので、企業判断としての採用が増えればと思います。 

シサム工房伝わるツールの画像

出典:2スマイルズノベルティについて https://sisam.jp/2smiles-novelty/about/ 

松浦 
「提案は担当者ではなく上層部」というのはヒロモリも直面しています。決裁権を持っている方に直接ご提案できるかどうかは重要で、意識しています。もう少しすると、シャワー効果で担当者レベルまで変わるかもしれないですが、まだそこまで至っていないというのが現実で、もう少し時間がかかると思います。逆にチャンスと捉えて、先んじて提案を仕掛けていきたいですね。 

フェアトレード・ノベルティのオリジナリティ、課題と可能性 

松浦 
企業が、自分たちが伝えたいことや行動をモノに託しているのがノベルティやギフトだったときに、オリジナル要素を求められることが多く、ヒロモリは企業に合わせたカスタマイズを強みとしてやってきました。企業の思いとフェアトレードの思いを融合させる価値観。それができると広がりがあるのでは と思いますが、反面テスト試作や製造ロスなど、環境面と逆行する側面も孕んでいる。そこに踏み込むべきなのか…悩ましいですが、その可能性はあるのでしょうか? 

水野 
正にフェアトレード・ノベルティの課題と直結します。課題とは、価格・納期短縮・対応力だと思っていて、対応力だと、フェアトレードのモノづくりとは、ファストファッションが2か月で企画から販売まで行うとしたら、フェアトレードは1年半~2年かかる。そんなモノづくりです。 
普通に相談されたら「できない」という回答になってしまう案件でも、できる限り「どんな条件ならできるか?」という発想で提案するように心がけています。そんなやりとりの中で、自分たちの意思でできることは率先してやっていく方針で、本業(商品化)にも貢献できるのであれば、リスクの中でのチャレンジもありえます。 

松浦 
今までのノベルティ調達の「当たり前」から考えるのではなく、「フェアトレード・ノベルティのスタンダードを受け入れていただけるかどうか?」という提案をしていく必要があるのでしょうね。「フルオリジナルでも対応できるけど、フェアトレードで実現するならこの範囲内で進めるべきですよ」ということを企業側にも理解してもらう。頭の中にあるノベルティ提案のスピードやタイミングから変えていかないと変わらないです。 
でも、オリジナル製作の可能性があることは心強いし、ヒロモリの差別性にもつながるので、そこはぜひ考えたいです。 

池澤 
オリジナル性という意味では、それぞれの企業のストーリー×フェアトレードアイテム、中でもなぜこの団体・この生産者を選んだのか、この背景を確立して伝えられれば、それもオリジナルになると思います。 

松浦 
生産者の現場ごとにそれぞれの事情や抱えている課題があると思うので、それを紹介することで、その背景を理解していただく流れができると良いですね。モノで選ぶのではなく、共感で選ぶ。 

池澤 
共感で選ぶ、すごくいいですね。 

世の中のSDGsの流れが、フェアトレード・ノベルティの追い風になる 

水野 
フェアトレード・ノベルティ市場の将来性という意味では、間違いなくこれから伸びていくと思います。ノベルティ、記念品として配布してもすぐに捨てられるものではダメという価値観は浸透していくと思うし、「配るものに気を使わないと逆に企業価値を落としますよ」ということも理解されていくと思います。これからノベルティは、記念品+企業姿勢を示すアイコン的な位置づけになっていくのではないでしょうか。 

SDGsについては、ここ1年ですごく認知が広がっていて、パンデミックも影響していると思います。当たり前が当たり前でなくなっていることに、人々が気付き始めた。国連のIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)では、各国がCO2対策に力を入れた場合でも、今後20年のうちに産業革命前からの気温上昇が1.5度を超える可能性が指摘されています。今、本気で私たちの行動を変えていかなければ地球自体が回らなくなる。特にパンデミックでは、貧困や児童労働の問題などが深刻化し、社会的弱者にしわ寄せがいくわけです。 
SDGsへの対応は常識になって欲しい。フェアトレードは、SDGsの17のゴールのほとんどをカバーするので注目されるだろうし、注目されるように伝えていきたいです。 

松浦 
日本でも、毎年のように豪雨災害などの異常気象があり、「自分ごと化」する変化が訪れていると感じます。 

水野 
「自分ごと化する人が増えていく」というのがSDGsの流れだと思うので、これを加速していく。加速させようとする意志を持った人が増えていくことがすごく大事。 

各々の「自分ごと化」がつくるフェアトレード・ノベルティの未来 

水野 
シサムのビジョンに「お買いものの力で思いやりに満ちた社会をつくる担い手となる」というのがあります。その商品を購入することで、その行動がどんな社会につながっていくのかを想像してお買い物をする。そんな人が増えていくといいなと思っています。そんなお買いものの力を意識する人たちが選択できるエシカルなモノやサービスを増やしていくことがシサムの社会的意義だし、そういう選択肢はフェアトレード以外にもどんどん増えていったらいいと思っています。 
今後キーになると考えているのは、「自分ごと化」と「選択肢を増やす」ことと捉えています。 

松浦 
販促での大きな壁は、個人より企業の自分ごと化ではないかと思います。経営意識を変える、活動を変えるなど大きな選択をしていかないと大きなムーブメントにはならない。欧米では始まっていますが、日本がそのように動き出すには、個人と企業が変わる、企業をどう変えていくかだと思います。 

水野 
企業、団体の自分ごと化でいうと、SDGsやESGの波は変化を促す大きなエネルギーになっているかと思っています。環境や人権問題にコミットすることは欧米では当たり前になっています。自分ごと化せざるを得ない状況になって向き合うという実態もありますね。 

近藤 
自分ごと化という視点でいくと、ヒロモリを100年企業にしたいと考えたときに、今のような大量生産型でモノを製造・販売するビジネスモデルだけでは、30年後のヒロモリはないと思っています。生活者の考え方は確実に変わっているし、クライアント企業もSDGsに対する本音と建前が本音になってきているように思います。SDGsは、ヒロモリとしても生活者としてもクライアント企業としてもますます自分ごとになっていくし、それ抜きの経営はありえないと考えています。  

欧米のクライアントや同業者と会議をしていて思うことは、彼らは本気。SDGsが本音になっています。そうじゃないとESGに影響するし、SDGsへの貢献が人事評価にも入っている。日本の企業も、自分ごと化がもっとスピードアップしていくと思いますし、輪が広がっていったときに、一気に変わると思います。  

我々も「感動の創造」を企業のミッションにして活動していますが、うわべだけじゃなくて本気で真剣にできることから始めないといけないと考えています。例えばサプライヤーの選び方なども、中国から日本の縫製工場に一部発注先を見直す取り組みを行っていて、日本の縫製産業の支援や、高齢化する縫製加工員に仕事・機会を提供することを始めています。 

水野 
フェアトレードが当たり前の選択肢・価値になっていけばいい、そんなふうに出来ればいいなと考えています。フェアトレードは5方良し。作り手良し、売り手良し、買い手良し、社会良し、地球環境良し。この5方を意識してより良いモノやサービスを開発していきたいし、そんな社会にしていきたいと思っています。 

ヒロモリさんにも、ぜひ私たちと一緒にフェアトレードを広げる仲間になって欲しい。 
オリジナルへの挑戦はどんな要望がくるのか、ちょっとコワイな(笑)。 

 


(有)シサム工房 水野泰平氏プロフィール 

水野氏プロフィール画像

水野泰平
(有)シサム工房 代表 

1969年生まれ。同志社大学商学部卒、立命館大学国際関係研究科博士前期課程修了。 
大学時代に南アフリカのアパルトヘイト問題と出会い衝撃を受け、人権、貧困問題に関心を持つ。 
雑貨店のバイヤーを経験した後、1999年 京都の百万遍にフェアトレードショップ、シサム工房を創業。 
現在、直営8店舗と卸、通販の運営を行う。

 

(有)シサム工房 人見とも子氏プロフィール 

 人見氏プロフィール画像

人見とも子
(有)シサム工房 取締役

1999年より、フェアトレードのオリジナル商品開発と輸入販売を行うシサム工房を運営。
インド・フィリピンなど、アジア6か国13のフェアトレード生産者団体と継続的な取引を行っている。
立命館大学国際関係研究科博士前期課程修了。
海外のフェアトレードパートナーとのコミュニケーション全般を担当する他、国際認証などのコンプライアンス分野や新規事業開発、社内外でのフェアトレードのストーリーテラーとして活躍している。 


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